2025/07/01 00:25


木のペンを選ぶとき、みなさんはどこに魅力を感じるでしょうか。

手に伝わる温もり、やさしい木肌、そして木目の美しさ。
そんな中でも、僕たち職人の間で特に「出会えたら嬉しい」と感じるのが、
“縮み杢(ちぢみもく)”と呼ばれる特別な木目模様です。
今回は、なかでも希少なキハダの縮み杢を使った杢軸ペンについて、
木工の現場で実際に手にしてきた視点から、その魅力と特徴をやさしくお伝えしていきます。

縮み杢とは?木材に現れる“自然のゆらぎ模様”

「縮み杢(ちぢみもく)」とは、木の繊維が波打つように入り組んでできる、
独特な木目模様のことをいいます。

光の当たり方によってキラキラと輝いたり、波のように揺れて見えたり――。
まるで木の表面に“光の流れ”があるような、不思議な美しさがあります。
この模様は、木が成長する過程でごくまれに自然に生まれるもので、人工的に作り出すことはできません。

そのため、縮み杢が現れた木材は「偶然の芸術」とも呼ばれ、古くから楽器や家具、仏壇などの高級木工品に使われてきました。
僕自身、もともと日本の伝統工芸である漆器づくりに長年携わってきましたが、
その中でもトチの木に現れる縮み杢はとても有名で、特に美しい器や盆などに重宝されてきました。

工房でその木目に出会うと、自然と「これはいい杢だなあ」と見惚れてしまう。
それほどまでに、縮み杢というのは木好きにとって心をつかまれる存在なんです。
その美しさに魅了された木軸ペンファンの間では、美しい杢目を活かしたペンのことを“杢軸ペン”と呼ぶこともあります。

杢の豊かさがそのまま個性となり、所有するよろこびを深めてくれるのです。

制作風景のショート動画

キハダの木とは?日本に古くからある薬用木材

キハダは、日本各地の山林に自生する落葉広葉樹で、ミカン科キハダ属に分類されます。

その特徴的な名前は、樹皮の内側にある鮮やかな黄色い層からきています。

この黄色い部分は「黄柏(おうばく)」と呼ばれ、古くから漢方薬や染料などとして利用されてきました。
木材としてのキハダは、比較的軽くて加工しやすい一方で、
派手な木目が出ることは少なく、ペン材として使われることはあまり多くありません。
ところが、その中でもごくわずかな個体には、驚くほど美しい”縮み杢”が現れることがあります。

まるで絹のように揺らめくような木目は、やさしい木肌と調和して、静かに心を奪うような上品さを持っています。
実は今回使っているキハダ材も、あまりにも縮み杢が美しかったため、使うタイミングを逃してしまい、
ずっと大切に保管してあった材料です。

いつか特別な形にしたいと思いながら、何年も工房の奥で眠っていた材でした。
そんな想いを込めて、ようやく形にしたのが、今回の木軸ペンです。

自然がつくり出した、偶然の芸術、この杢目に魅せられた方に、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。

どこで手に入る?再販情報や限定販売について

今回ご紹介したキハダの縮み杢ペンは、非常に希少な素材のため、
一度にご用意できる本数はごくわずかです。

木材の状態を見極めながら一本一本丁寧に仕立てているため、どうしても数量には限りがあります。
現在、月に一度のペースで再販を行っていますが、使用しているキハダ材は、以前より大切に保管していた限られた材料です。

そのため、あと数回の再販で終了となる可能性が高く、次回以降の確約はできません。

販売場所:わたなべ木工芸 公式オンラインショップ(BASE)

なくなり次第終了/材料がなくなり次第、再販終了予定

おわりに


自然が長い年月をかけてつくり出した“縮み杢”という美しい模様。

それは人の手では決して生み出せない、偶然の中に宿る芸術です。
その中でも、キハダの縮み杢はとても珍しく、やさしく静かな表情の中に、光がゆらめくような魅力があります。

日々の暮らしの中で、ふと手に取ったときに気持ちがほっとするそんな存在になってくれたら、職人としてこれ以上の喜びはありません。
今回使った材は、私が長年大切に保管していたもので、残りもわずかとなっています。

この機会に、自然が生み出した一瞬の美しさを、ぜひあなたの手元で感じてみてください。
では、またー!

杢軸ペンと木軸ペンの違いとは?職人がやさしく解説