2025/06/17 20:04

こんにちは!
わたなべ木工芸 渡辺です。
創業75年の伝統工芸の工房で木のペン(木軸ペン)を作っています。
今回は黒柿の木軸ペンについて。
黒柿(くろがき)とは、「黒い模様が現れた柿の木」のことをいいます。

一見すると、ただの柿の木に見えるかもしれませんが、
“黒い模様”があるだけで、黒柿は高級素材として扱われ、
ときには芸術品のように大切にされることもあります。
では、なぜ黒い模様が出るだけでそこまで価値があるのでしょうか?

この記事では、黒柿が“特別な木”とされる理由を、木工職人の視点からわかりやすく解説していきます。

黒柿とは?

黒柿とは、柿の木の中でも、とくに黒い模様が現れた木のことをいいます。
この模様は、あとから色をつけたわけではなく、自然にできたものです。

木が長い時間をかけて育つ中で、成分がかたよったり、
地中の鉄分や環境の影響を受けたりして、黒い線やマーブル模様のような色が現れるといわれています。
ただ、この黒い模様が出る柿の木は、とてもめずらしい存在です。

「数千本に1本」「1万本に1本」と言う人もいれば、「100本に1本」と言う人もいますが、
実際のところ、木を切ってみるまで分からないため、正確な数ははっきりしていません。
ですがひとつ言えるのは、黒柿は本当に出会うのがむずかしい、特別な木だということです。

なぜ黒柿には価値があるのか?

黒柿が高く評価される一番の理由は、その見た目の美しさと、出会える確率の低さです。
まず模様について。

黒柿には、まるで墨で描いたような線や、マーブル模様、波のようなうねりなど、
自然とは思えないほど美しい模様が出ることがあります。

これらはすべて天然のもので、同じものは二つとありません。
そして希少性。
黒柿が出るかどうかは、木を切ってみるまで分かりません。

さらに、きれいな模様が出ていたとしても、そこから製品にできる部分はごくわずかです。
というのも、黒柿には加工のむずかしさという問題もあります。
まず、乾燥の段階でひび割れが起きやすく、
とくに白い部分には虫食いが出やすいため、材料の保管や乾燥にはとても気をつかいます。
また、白い部分と黒い部分では木のかたさがまったく違うため、
削ったり穴をあけたりする作業も繊細な技術が必要です。
さらに、白と黒のバランスが美しくないと製品として使いづらいという点もあります。

黒が多めで模様に力強さがあるものはよいのですが、
白ばかりだと迫力が出にくく、デザインとして使うのが難しい場合があります。
もちろん、白が多くても模様のバランスが整っていれば、魅力的な素材になります。

ですが、そうした部分は限られており、結果として使えるのはほんの一部だけになるのです。
だからこそ、黒柿は「ただの模様が入った木」ではなく、特別な価値を持った素材として扱われてきたのです。

黒柿は、昔からどんなふうに使われてきたのか?

黒柿は、その美しさと珍しさから、昔から“特別なもの”に使われてきた木です。
たとえば、茶道具のふたや、刀の柄(つか)、印籠(いんろう)、硯箱(すずりばこ)など──

いずれも、大切な人に見せる場面や、格式の高い場面で使われるものばかりです。
これらに黒柿が使われていたのは、めずらしくて美しいからだけでなく、

持つ人の品格や趣味のよさをあらわす素材として、大切にされてきたからです。
また、昔の職人たちも黒柿を特別な木と感じていたのか、

木目の出方や模様の配置にまで細かく気を配っていたといわれています。
こうした長い歴史の中で、黒柿は“貴重な木”として扱われ続けてきました。

黒柿と木軸ペンの相性は?

黒柿は、木軸ペンにもとてもよく合う素材です。
まず、模様の美しさ。
一本ごとに模様の出方がまったく違うため、同じものは二つとありません。

まるで、自分だけの特別な道具を持っているような感覚になります。
そして黒柿は、使うほどに手になじみ、つやが出てくるという特徴もあります。

大切に使えば使うほど、風合いが増していきます。
そんな変化を楽しめるのも、天然木ならではの魅力です。
ただし、黒柿は加工がむずかしい素材でもあります。

とくに、白い部分が多すぎると、見た目に迫力が出にくく、デザインとして製品にしづらいことがあります。
もちろん、白と黒のバランスが美しく整っていれば、白が多めでも魅力的な一本になります。

ですが、模様の出方や全体の印象が重要になるため、
実際にペンに使えるのは、模様の配置や色のバランスがよいごく一部分だけです。
だからこそ、黒柿の木軸ペンはとても貴重で、特別な一本といえるのです。


まとめ

黒柿は、ただ黒い模様があるだけの木ではありません。

自然が長い時間をかけて生み出した、めったに出会えない特別な素材です。
その美しさ、希少さ、加工のむずかしさ
すべてが重なって、黒柿には深い価値があります。
そんな黒柿を、手の中で使える道具に仕立てた木軸ペンは、

ただの“道具”ではなく、長く付き合っていける一本になるはずです。
もし黒柿にふれる機会があれば、
その木が生まれるまでの物語にも、ぜひ思いを巡らせてみてください。