2025/09/10 20:42
「欅(けやき)の木軸ペンを買ったら、思った以上に匂い(臭い)が強くて驚いた」
そんな声をSNSで見かけました。
わたなべ木工芸では、仕上げたあとにしばらく時間を置いてから組み立てを行い、
香りのチェックもしたうえで出荷しているため、そういったケースはほとんどありません。
とはいえ、木は自然素材であり、個体差があるのも事実。
中には「匂いが抜けにくい個体」があることも、職人として感じています。
今回は「欅の匂いがなぜ強く感じられるのか」、
そして「香りが気になる場合の対処法」について、木工職人の視点からわかりやすくお伝えします。
木のペンをより安心して、長く楽しんでいただくためのヒントになれば嬉しいです。
欅の匂いが強い理由
欅(けやき)は、日本を代表する広葉樹のひとつで、
古くから家具や建築材、工芸品に使われてきました。
その特徴のひとつが「香り」です。
特に赤身と呼ばれる木の中心部分には、フィトンチッドなどの香り成分が多く含まれており、
削った瞬間にその成分が一気に空気に触れることで、強く香り立ちます。
この香りは、木がもともと持っている抗菌・防虫作用のある天然成分によるもので、
木自身が自分の身を守るために持っている“自然の力”とも言えます。
職人の立場から見ると、削りたての欅は工房中に香りが広がるほど強く、
木の個性を感じさせてくれる瞬間でもあります。
ただし、香りの強さには個体差があり、特に匂いの強い木材にあたると
普段、馴染みのない方にとっては
「思っていたよりも匂いがする」と感じる方もいるかもしれません。
匂いは自然に抜けていく
一般的に、欅の木軸ペンの香りは「削った直後がピーク」であり、
数日から数週間ほどで少しずつ落ち着いていくのが通常です。
特に、工房でしっかり乾燥・仕上げから組み立ての時間を取っていれば、
気にならない状態になります。
ただ、ここでとても重要なのが「木材の乾燥状態」です。
<材料そのものの乾燥が香りに影響する>
木材の香りの強さには、木そのものの乾燥状態が大きく関係しています。
乾燥が不十分なまま削ると、香り成分が一気に放出されやすく、
削りたての匂いが強く感じられる原因になります。
わたなべ木工芸では、材料段階から数年単位の時間をかけて天然乾燥させた木材を使用しています。
これは、木に無理をかけず、自然な状態でじっくりと落ち着かせるための大切な工程です。
さらに、仕上げたあとは一定期間寝かせてから組み立てを行い、
香りのチェックも行ったうえで出荷しているため、急激に匂いが強くなるケースはほとんどありません。
<それでも「香りが強く感じられること」はある>
とはいえ、木は自然素材。
ごくまれに、香り成分を特に多く含む“香りの強い個体”も存在します。
明らかに匂いが強すぎると感じた個体は、検品の段階で組み立て前に除いています。
それでも、木の香りは人によって感じ方が大きく異なるもの。
普段から香りに敏感な方にとっては、自然な木の匂いでも「強い」と感じられることがあるかもしれません。
木軸ペンは、木そのものの個性や自然の風合いをそのまま活かした筆記具です。
だからこそ、ひとつひとつの個体差も含めて「木との出会い」として楽しんでいただけたら嬉しいです。
香りが気になるときに “やってはいけないこと
欅の香りが気になるとき、なんとかして早く消したいと思う方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、自己流の対処をすると、かえって木を傷めてしまうことがあるため注意が必要です。
以下のような方法はおすすめできません:
<水で洗う>
木は水分を吸うと膨張し、その後乾くと収縮します。
この繰り返しによってひび割れや歪み、変形の原因になるため、水洗いは絶対に避けてください。
<アルコールや洗剤で拭く>
除菌スプレーや家庭用洗剤で拭くと、木の表面を保護している天然オイルや蜜蝋が剥がれてしまうことがあります。
さらに、木そのものを傷めてしまうリスクもあります。
<強くこすって磨く>
サンドペーパーや固い布でゴシゴシこすると、木肌が傷つき、逆にザラついたり劣化する可能性があります。
また、無理に香りを取ろうとこすることで、かえって香りが立ってしまう場合もあります。
水に浸かってしまったときは?
誤って水に濡れてしまった場合、一時的に木の香りが強くなることがあります。
この場合は、金具を外し、風通しの良い場所で数日〜1週間ほどゆっくりと自然乾燥させてください。
※ドライヤーなどで急激に乾かすのは、ひび割れや歪みの原因になるため避けましょう。
木軸ペンは、表面を削るような強い刺激や薬品にとても弱い素材です。
香りが気になっても、「ちょっと置いておいて様子を見る」くらいの自然な対応がいちばん安心です。
匂いが気になるときの “正しい対処法”
もし、欅の香りが少し強いと感じたときは、
以下のようなやさしい方法でのお手入れがおすすめです。
蜜蝋(みつろう)ワックスをうすく塗る
匂いが気になるときには、メンテナンスオイルではなく、蜜蝋ワックスの使用をおすすめしています。
オイルは木に浸透することで内部の乾燥を防ぐ目的が強く、
どちらかというと「木を育てる」ためのケア用品です。
一方で、蜜蝋ワックスは木の表面をやさしくコーティングするタイプの仕上げ剤。
このコーティング効果によって、香り成分の揮発をおだやかにし、匂いを軽減することができるのです。
さらに、木肌に自然なツヤが生まれ、手触りもさらりと心地よく整います。
風通しのよい場所で少し寝かせる
すぐに使わず、風通しの良い場所に数日置いておくだけでも、香りは自然とやわらいでいきます。
ペンケースや袋などに入れっぱなしにせず、空気に触れさせてあげることも効果的です。
まとめ
欅の木軸ペンに感じる香りは、木が本来持っている自然の成分によるものです。
削りたてが香りのピークであり、多くの場合は時間とともに落ち着いていきます。
うちの工房では、数年単位で乾燥させた木材を使用し、組み立て前にも匂いをチェックしています。
それでも、ごくまれに香りの強い個体があり、感じ方にも個人差があるため、
「ちょっと気になるな」と思う方がいらっしゃるのも自然なことだと思います。
そんなときは、蜜蝋ワックスで表面を整えてあげたり、
風通しの良い場所で少し寝かせてあげるだけでも、ずいぶん使いやすくなります。
無理に香りを消そうとせず、木と対話するように、少しずつ慣れていく。
それもまた、木の道具と付き合う上での大切な楽しみ方です。
あなたの暮らしの中に、やさしくなじむ一本になりますように。
では、またー!