2025/09/11 16:04


「漆塗り」っていう言葉は聞いたことがあっても、
実際にどんなものなのか詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。

漆塗りは、日本で古くから受け継がれてきた伝統的な塗装技法で、
木の表面を美しく、そして丈夫に仕上げることができます。

こんにちは!
わたなべ木工芸 渡辺です。

創業75年の伝統工芸の工房で木のペンを作っています。


わたなべ木工芸は、最近では、すっかり木軸ペン工房になってますが、

もともとは漆塗りで器を作ってきた工房です。


僕自身、漆塗りを15年以上はガッツリやっていました。

この漆塗りを木のペン(木軸ペン)に施すと、艶やかな光沢としっとりした手触りが加わり、

オイル仕上げとは違った高級感が生まれます。
さらに、木材の保護や耐久性向上の効果もあり、長く愛用できる一本に仕上がるのです。
この記事では、漆塗りの基本から、その魅力、そして木のペンとの相性まで、職人目線でわかりやすく説明してみたいと思います。
漆塗りとは?

漆塗りっていうのは、「ウルシの木」からとれる樹液を精製して、
木や竹などの表面に何度も塗り重ねて仕上げる、日本の伝統的な塗装方法のことです。


日本では縄文時代から使われていて、食器や家具、仏具、楽器など、本当にいろんなものに使われてきました。

実は、日本の伝統建築や美術工芸品にも漆塗りが施されたものがたくさんあります。
たとえば正倉院の宝物やお寺の調度品なんかは、何百年も経っているのに、今でもきれいな状態なんです。
これだけ長持ちする塗装って、化学塗料ではなかなか真似できません。

漆にはこんな特徴があります。

・防水性:水を通さず、湿気にも強い
・抗菌性:雑菌の繁殖を抑えてくれる
・耐久性:傷や摩耗にも強く、長く美しさを保てる

だから漆塗りは、見た目の美しさだけじゃなくて、実用面でもすごく優れた塗装なんです。
特に木のペンに使うと、木を守りながら高級感までプラスできます。

漆塗りが木のペンにもたらす5つの魅力

木のペンに漆塗りをすると、「見た目がきれいになる」以上の魅力がたくさんあります。
ここでは、特に感じやすい5つのポイントをご紹介しますね。

1. 深みのある光沢
 
漆ならではの、しっとりとした艶が魅力です。
光の角度や明るさによって表情が変わるので、手に取るたびに違った美しさを楽しめます。

2. 経年変化が楽しめる
新品のときもきれいですが、使い込むほどに色や艶が落ち着いて、透明感が増してきます。
色が明るくなっていくんですね!時間とともに“育っていく”感じが愛着につながります。

3. 手触りの良さ

表面がなめらかで、手にしっとりなじみます。
長時間書いても手が疲れにくく、触れるたびに「いいな」と思える質感です。

4. 耐久性がアップする
漆は木の表面を強く保護してくれるので、日常使いでも傷や汚れに強くなります。
木目の美しさを長く保てるのもポイントです。

5. 唯一無二の高級感

天然素材と伝統技法の組み合わせだからこそ出せる、特別な存在感があります。
贈り物にも、自分用の一本としてもぴったりです。

なぜ木のペンに漆塗りがぴったりなのか?

木のペンは、もともと木のぬくもりや自然な風合いが魅力です。
そこに漆塗りを施すことで、見た目・触り心地・耐久性のすべてがワンランク上になります。

まず、質感の相性が抜群です。
木目の美しさに漆の艶が重なることで、上品さと存在感がぐっと増します。
これは、仕上げ方や、使う漆の種類によっても違いはでてきますが、
うちの工房の場合は、木の良さを活かす仕上げっていうのを意識するようにしています。
漆塗りがメインの工房の場合は、木目を出さずに漆塗りの美しさを全面にだしている場合もありますね。


次に、耐久性ですね。
漆塗りは木の表面をしっかり保護し、傷や汚れ、水分から守ってくれます。
ペンは毎日手に触れるものなので、この耐久性は大きなメリットです。

そして、経年変化の楽しみも魅力のひとつ。
使い込むうちに漆の色味が少しずつ明るくなり、
透明度が増して、木目の表情がより楽しめるようになります。
同じペンでも持ち主の使い方や環境で変わるため、まさに“世界にひとつ”の一本になります。
だからこそ、漆塗りは木のペンと相性抜群なんです。
見た目の美しさだけでなく、「長く、美しく、愛用できる」という価値までしっかりプラスしてくれます。

漆塗り木軸ペンの制作工程(拭き漆仕上げ)

拭き漆は、漆を何度も木に染み込ませ、拭き取って仕上げる方法です。
塗膜を厚く作る一般的な漆塗りとは違い、木目や質感を活かしながら、自然な艶と保護力を与えられます。
ここでは、その流れを簡単にご紹介します。

<木地加工>

まずはペンの形に木を削ります。木目や杢(もく)の出方を見ながら、美しく仕上がるよう形を整えます。
いつものペン作りですね。


<木地固め(下塗り)>

下塗り用の生漆をたっぷり塗って染み込ませます。

<研磨>
漆が乾いたら、表面を滑らかにするために研磨します。
ここでの丁寧さが、最終的な艶や質感に大きく影響するので
意外と難しい


<漆を塗って、拭き取る>
生漆を塗り、すぐに専用の拭き取り紙で余分を拭き取ります。
これにより、表面に漆の薄い層ができ、自然な艶が生まれます。

<乾燥(1日〜数日)>
 
湿度と温度を管理した場所でゆっくり乾燥させます。
特殊な環境でないと乾かないのが漆塗り。


<塗りと拭きと乾燥を繰り返す>

この「塗って→拭いて→乾燥」の工程を4〜5回繰り返します。
数を重ねるほど艶が増し、耐久性もアップします。

漆塗りは乾燥にも時間がかかるため、一本のペンを仕上げるのに数週間かかることもあります。
その分、耐久性と美しさがしっかり詰まった一本になるんです。

漆塗りのお手入れと注意点

漆塗りの木軸ペンは丈夫で長持ちしますが、ちょっとしたお手入れでさらに美しさをキープできます。
ここでは、漆塗り全般に共通するお手入れ方法と注意点をご紹介します。

1. 柔らかい布で軽く拭く
使用後は、乾いた柔らかい布で軽く拭くだけで十分です。手の油分や汗をやさしく取り除くことで、艶が長持ちします。

2. 強い直射日光を避ける
長時間日光に当たると、色や艶が変化しやすくなります。保管はペンケースや引き出しなど、暗めの場所がおすすめです。

3. 高温・多湿の環境を避ける
真夏の車内や湿度の高い場所は、漆の表面に影響を与える可能性があります。できるだけ安定した環境で保管しましょう。

4. 硬い物と一緒に保管しない

金属製のペンや文房具と擦れると、表面に細かい傷がつくことがあります。ペンケースの仕切りや布袋を使うと安心です。

5. 日常的に使うことが最高のメンテナンス

漆は手の油分と触れ合うことで自然な艶が増していきます。しまい込むより、日常的に使うほうが美しく育ちます。

漆塗りは見た目の美しさだけでなく、使うほどに味わいが増していく仕上げです。
やさしく扱いながら日常に取り入れることで、世界にひとつだけの“育つペン”にしていきましょう。

まとめ


漆塗りは、日本で古くから受け継がれてきた伝統の塗装技法です。
ウルシの木から採れる天然の樹液を使い、木の表面を美しく、そして丈夫に仕上げます。
正倉院の宝物やお寺の調度品が何百年も美しいまま残っていることからも、その耐久性は本物です。
木のペンに漆塗りを施すことで、見た目の高級感や手触りの良さはもちろん、日常使いにも耐える強さが加わります。
さらに、使い込むほど艶や色が変化し、自分だけの一本に育っていくのも大きな魅力です。
漆塗りは、ただの筆記具を“一生もの”の工芸品へと変えてくれる技法です。
ぜひ、漆の美しさと木のぬくもりを、毎日の筆記で味わってみてください。
では、またー!