2025/10/29 11:55

木のペンを見ていると、
「この模様、なんだかすごくきれい…」と感じたことはありませんか?
光の角度でキラッと輝いたり、ユラユラとゆらめいたり。

その不思議な模様は、「杢(もく)」と呼ばれる特別な“木の模様”です。

こんにちは!
わたなべ木工芸 渡辺です。

創業75年の伝統工芸の工房で木のシャーペンやボールペンを作っています。

杢が入った木軸ペンは、同じ樹種でもひとつとして同じ柄がなく、

自然が長い年月をかけてつくり出した世界に一つだけの模様を楽しめます。

でも、

「どうして杢はこんなにきれいなの?」「木目とは何が違うの?」


そんな疑問を持つ方も多いと思います。
この記事では、はじめて木軸ペンを選ぶ方に向けて、
なぜ杢は美しいのか?
その理由を職人の視点から、お話しします。

杢は「偶然」と「時間」が生み出す模様


木の中に現れる“杢(もく)”は、
人の手ではつくり出せない、自然の偶然が生んだ模様です。

木は何十年、時には百年以上ものあいだ、
雨風や日差し、雪、土の重みを受けながらゆっくりと成長します。
その過程で、木の繊維がわずかにねじれたり、波打ったりすることがあります。

その「わずかなゆがみ」こそが、やがて木の中に美しい杢となって現れるのです。

たとえば、風が強い土地で育った木は、
幹を支えるためにねじれながら成長します。
そのねじれが年輪の流れを変え、光を受けると波のような模様として浮かび上がります。
つまり杢は、木が生きてきた証そのもの。

まっすぐな木目にはない、時間と自然の力が描いた“物語”が詰まっています。

光を受けて変わる“立体感”が魅力

杢(もく)の中には、光の当たり方で表情が変わるものがあります。
とくに「縮み杢(ちぢみもく)」のように、
木の繊維が細かく波打っているものは、光を反射してキラッと輝きます。
角度を変えるたびに、明るく見えたり、影が浮かんだように見えたり、
手に取ると、まるで模様が動いているように感じられます。
これは、木の内部で繊維が立体的にねじれているため。

そのわずかな凹凸が光を散らし、見る角度ごとに違う表情を生み出しています。

つまり杢の美しさは、「平面なのに奥行きがある」という不思議な感覚。
その立体感こそが、人を惹きつける魅力のひとつなんです。

人が“杢”に惹かれる心理

木の模様を見て「なんだか落ち着く」「ずっと眺めていたくなる」
そう感じる方は多いと思います。
それは、杢が持つ“自然のリズム”が人の心に心地よく響くからです。
たとえば、風にそよぐ木の葉や、水の流れ、ろうそくの炎。
どれも動きに少しだけ不規則さがあって、その“ゆらぎ”が人に安心感を与えます。
杢の模様も同じで、まっすぐではない曲線や波打つ流れが、
見る人に“自然のリズム”を感じさせてくれるのです。
また、杢の中には「時間の積み重ね」が見えます。

何十年もかけて育った木の年輪や繊維のねじれが、模様として表に現れる。
そこに人は、生き物としての力強さや、自然の神秘を感じ取ります。
だからこそ、杢軸ペンを手にすると、
ただの文房具以上の“ぬくもり”や“生命感”を感じるのだと思います。

それは、木が長い時間を生きてきた証であり、

私たちが本能的に惹かれる“自然の形”なのかもしれません。

杢を最大限に生かす職人の仕事

杢(もく)は、それ自体がとても美しいものですが、
どんな材料を選び、どの向きで取るかによって、仕上がりはまったく変わります。
同じ木でも、少し角度を変えるだけで杢の出方が違う。

だからこそ、木の塊や板を見て、

「どこから切り出せばいちばんきれいに模様が出るか」
を考えることが大切なんです。

言いかえると、職人の仕事は“削る”よりも前に、

木の中の模様を見つけるところから始まっているということ。
杢がしっかり出ている部分を選び、
模様の流れが自然に見えるように材料を取ることで、
仕上がったときの光の通り方や立体感がぐっと際立ちます。

こうして木と向き合いながら、
その木が持つ魅力をできるだけそのままの形で引き出していく。

それが、職人としていちばん大切にしている部分です。

まとめ

杢(もく)の美しさは、
木が何十年、時には百年以上かけて刻んできた“時間の模様”です。
それは人の手で作れるものではなく、
自然が長い年月をかけて、少しずつ木の中に描いていったもの。
だからこそ、同じ木でもまったく同じ杢は二つとありません。

そして、その美しさをどう見せるか。
木を選び、向きを決め、仕上げを整える職人の仕事なんですね。

杢軸ペンを手にしたとき、
光の中でわずかに変わる表情や、木の奥から感じる力強さを、

ぜひゆっくりと味わってみてください。

わたなべ木工芸では、国産の木を中心に一本ずつ丁寧に仕上げた木軸ペンをご用意しています。

気になる方は、ぜひこちらからご覧ください。