2025/11/28 15:59

木軸ペンの楽しさのひとつに、“杢(もく)”との出会いがあります。
木が何十年、何百年と生きてきた中で、偶然生まれた模様、それが杢です。
木が何十年、何百年と生きてきた中で、偶然生まれた模様、それが杢です。
同じ樹種でも、杢がひとつ入るだけで印象はガラッと変わります。
落ち着いた雰囲気になるものもあれば、光を当てると一気に表情が華やぐものもある。
落ち着いた雰囲気になるものもあれば、光を当てると一気に表情が華やぐものもある。
まさに「自然が描いたアート」を手のひらで味わえるのが、木軸ペンの魅力です。
この記事では、長年ペンをつくってきた職人の視点から、
それぞれの杢がどんな表情を持っていて、どんな背景で生まれるのかを解説していきます。
お気に入りの一本を選ぶときの参考になれば嬉しいです。
杢(もく)とは?|木が歩んできた時間の“痕跡”のようなもの
“杢(もく)”とは、木が長い年月をかけて育つ中で、
”偶然生まれた特別な模様のこと”をいいます。
年輪や通常の木目とは違い、
外からの力(風・雪・重さ・ねじれ)や、
環境の変化によってできた “ゆらぎのある模様” です。
言いかえると、
「木がどう生きてきたか」という物語そのものなんですね。
たとえば
・雪の重みで幹がたわんだ
・地中でゆっくりと眠っていた
・枝が分かれるポイントに力が集中した
・菌が入って不思議な線を描いた
そんな自然のドラマの積み重ねが、
私たちが美しいと感じる杢になって現れます。
そして杢が出る部分は、
一本の木の中でも ほんの一部だけ。
そのため、
・そもそも出る確率が低い
・ペンに使えるサイズに切り出せるのはさらに少ない
・同じ杢は二度と出ない
という、まさに“一期一会”の特徴を持ちます。
木軸ペンはサイズが小さいからこそ、
この小さな杢がとてもよく映え、
手にした瞬間に個性と存在感を感じることができます。
なぜ“杢(もく)”は木軸ペンの魅力や価値を高めるのか?

木軸ペンを手にしたとき、 その美しさや特別感をぐっと高めてくれるのが “杢(もく)” の存在です。
画像の左が普通のけやきで右は杢のあるけやきです。
一目で違いがわかりますね!
杢が入った木材は、ただの木目とは違います。
木が長い年月を過ごす中で偶然生まれた、
いわば 自然が描いた模様 と言えます。
そして杢には、
厳密に決まった分類やルールが存在するわけではありません。
杢の名前や呼び方は、地域やジャンルによって違うことがあります。
同じ模様でも、
・木工の世界ではこの呼び名
・楽器の世界では別の呼び名
・材木屋ではまた違う呼び方
というケースがあります。
また、“これは杢だ” “これは上質な木目だ” と判断する部分には、
職人としての経験や見てきた数が大きく影響します。
言いかえると、
杢は自然がつくった模様であり、
それをどう感じるかは職人の目による部分も大きいということです。
<そもそも杢材そのものが非常に希少で高価>
一本の木の中で杢が現れるのはごく一部で、
さらにペンに使える強度・太さ・方向を満たす部分となると
材料段階ですでに希少・高価になります。
だからこそ、“良い杢”はほとんどが一期一会となります。
<杢があるだけで、木軸ペンはひとつ上の価値へ>
・光の角度で表情が変わる
・小さな木軸でも奥行きを感じる
・手にした瞬間に特別感がある
杢は木軸ペンを
「ただの木のペン」から「自然がつくったアート作品」へ引き上げます。
模様の意味や背景を知ることで、
その一本がより特別な存在に感じられるはずです。
代表的な“杢(もく)”の種類一覧
<上杢(じょうもく)>
※「特定の模様」ではなく、わたなべ木工芸の基準で選ぶ“上質な木目”
わたなべ木工芸では、長年の経験をもとに、
「これは普通の木目とは違う。
明らかに質の高い、美しい木目だ。」
と判断した木材に対して
“上杢”という表現を使っています。
特徴としては、
・木目が細かく複雑に入り組んでいる
・年輪の流れに“シワ”のような揺らぎがある
・光の角度で表情が変わる
といった 「普通ではない上質さ」 が見られる点です。
上杢は、特定の杢のように形が決まっているわけではありません。
だからこそ、木を扱ってきた年数や経験によって
“その工房ならではの判断基準” が生まれます。
わたなべ木工芸では、
木取りの段階から杢の現れ方をじっくり見て、
・これならペンになったとき美しい
・使い続けても飽きがこない
・木の個性として胸を張って届けられる
と判断した材を“上杢”として扱っています。
ペンに仕上げると、
ただの木目とはひと味違う ”深み”・”奥行き”・”高級感” があり、
自然がつくり出した“贅沢な表情”を手のひらで味わえる一本になります。
<縮み杢(ちぢみもく)>

縮み杢は、木軸ペンの世界でもっとも人気が高く、「美しい杢といえばこれ」と言われる定番の模様です。
木目が波のように細かく揺れ、
光を当てると ふわっと立体的に浮き上がるように見える のが特徴。
木の内部で年輪がわずかに揺れているため、
鏡面のような“ゆらぎ”が生まれます。
わたなべ木工芸でも、
栃(トチ)・きはだ・山桜などで美しい縮み杢が現れたことがありますが、
同じ樹種でも出る量は本当にわずかです。
縮み杢の魅力は、
“派手さ”と“上品さ”のちょうど真ん中にあるところ。
・光にあたるとキラッと輝く
・視線を少し動かすだけで表情が変わる
・使い続けるほど深みが出る
そんな繊細な美しさが、ペンという小さな道具の中でとても映えます。
高級感がありながら、日常にそっと馴染む縮み杢は、初めて木軸ペンを選ぶ方にも、
上質な一本を探している方にもおすすめできる“万能の杢”です。
<サバ杢(さばもく)>

サバ杢は、木の“二股に分かれる部分”、いわゆる 分岐点 に現れる特別な杢です。
木が成長する中で力が集中する場所のため、
木目が複雑に重なり合い、しなやかで流れるような模様が生まれます。
名前の由来は「捌く(さばく)」=分岐するところから。
木工の世界では昔から“サバ杢”と呼ばれてきた、きわめて職人的な言葉です。
サバ杢は他の杢に比べて、
妙に主張しすぎないのに、近くで見ると「おっ」と感じる美しさがあります。
・線がゆったりとカーブしている
・ 柔らかい波紋のような表情
・木目の流れに深みがある
そんな“落ち着いた品の良さ”が魅力です。
わたなべ木工芸でも
欅、神代欅(じんだいけやき)やで出ることがありますが、
出現率はとても低く、数本の材から 一本だけ偶然出てくる ようなイメージです。
ペンという小さな世界に閉じ込めると、
サバ杢の“流れの美しさ”が特に引き立ち、
静かに存在感を放つ一本に仕上がります。
控えめだけれど、じっくり眺めるほど味わいが深くなる杢、それがサバ杢です。
<玉杢(たまもく)>

玉杢(たまもく)は、数ある杢の中でも 「自然がつくった宝石のような模様」 といわれる、とても華やかな杢です。
特徴は、名前の通り “玉(たま)”のような丸い渦模様 がぽつぽつと並ぶこと。
木が成長する中で、局所的にねじれや複雑な力が加わったときに現れます。
玉杢が出るポイントは限られており、
木の“瘤(こぶ)”の部分や、特殊な成長をした箇所に集中するため、
出現率が非常に低い杢 のひとつです。
ペンに仕立てると、
・ぽつん、ぽつんと現れる丸い模様
・渦の中心に光が集まるような立体感
・見る角度で小さく輝く表情
そのどれもが 「小さなアート」 のように感じられます。
同じ樹種でも、玉杢が入るかどうかは完全に“運”。
材木屋でも職人でも、出会えるタイミングは読めません。
そのため、玉杢が入ったペンは
自然と「特別な一本」として扱われることが多く、
コレクションやギフトとしても人気があります。
デザインとしては決して派手すぎず、
木のぬくもりの中にひっそりと“宝石のような気配”を宿す、
そんな奥ゆかしい魅力を持つ杢が、玉杢です。
<スポルテッド杢>

スポルテッド杢は、木に”菌(きのこ類の一種)”が入り込むことで生まれる、
とても個性的な“黒い線模様”が特徴の杢です。
一般的な杢は木の成長や圧力によって生まれますが、
スポルテッド杢は 自然の中で木が朽ち始める過程 で現れる特別な模様。
菌が木を分解する際に生まれる“防御反応の境界線”が黒く残り、
まるでインクで描いたような曲線や分岐線になります。
この線は、
・まっすぐ伸びる
・分岐する
・迷路のように入り組む
・一気に流れるように走る
など、一本一本まったく違うため、
再現が一切できない完全一点物の模様 です。
木軸ペンを製作する際は、「上品なスポルテッドだけを選ぶ」という職人の目利きが重要になります。
ペンにすると、
・自然が描いた“墨絵”のような線
・木目とのコントラストで生まれる深い表情
・個性的なのに意外と落ち着いた存在感
・使うほど木肌になじむ柔らかい質感
といった魅力があり、
“アート作品としての木軸ペン”を求める方に人気があります。
スポルテッドは、自然が生み出す模様の中でも
特に 偶然性と物語性が強い杢。
同じ線は二度と出ない、
そんな唯一無二の美しさが詰まった杢です。
<如鱗杢(じょりんもく)>

如鱗杢(じょりんもく)は、名前の通り
“魚の鱗(うろこ)のように細かい模様が重なる” とても繊細な杢です。
木が長い年月をかけて成長する中で、
年輪の流れが微妙にずれたり、
わずかな圧力が継続的にかかると、
木目が少しずつ波打つように乱れ、
その重なりが 鱗のような細かい揺らぎ をつくり出します。
特徴としては、
・細かい“波紋”のような揺れ
・強すぎず、上品に輝く反射
・縮み杢よりも粒が細かい
・模様の方向が一定ではなく“微妙にズレる”ことで複雑な味わいが出る
という点が挙げられます。
ペンにすると、
派手に主張するわけではないのに、
光の位置によって すっと表情が変わる柔らかい陰影 が生まれます。
わたなべ木工芸でもごくまれに登場する杢ですが、
出現率は低く、玉杢や孔雀杢と同じくらい “偶然のめぐり合わせ” が必要です。
まとめ
杢(もく)は、木が生きてきた時間の中で偶然生まれた、
自然だけが描ける特別な模様 です。
同じ樹種でもまったく違う表情を見せることがあり、
その一本のペンにしかない“個性”と“物語”が宿っています。
今回紹介した杢
は、わたなべ木工芸が実際に扱ってきた中でも、
特に美しい表情を見せてくれた杢ばかりです。
木軸ペンの楽しさは、
「今日はどんな杢と出会えるだろう?」という
小さなワクワクにあります。
お気に入りの一本を選ぶとき、
杢の違いを知っているだけで
木軸ペンの世界はぐっと深く、面白くなります。
今日の記事が、
あなたの“木目を見る目”を少しだけ広げる
きっかけになれば嬉しいです。
わたなべ木工芸では、国産の木を中心に一本ずつ丁寧に仕上げた木軸ペンをご用意しています。
気になる方は、ぜひこちらからご覧ください。
