2025/10/24 12:15

木のぬくもりを感じられる木軸ペン。
その仕上げ方法には「オイル仕上げ」「ワックス仕上げ」、そして「漆塗り(うるしぬり)」など、いくつかの種類があります。
見た目はどれも似ていますが、実はこの“漆塗り”には、ほかの仕上げにはない大きな特徴があります。
塗り方の違いだけでなく、使い心地・耐久性・経年変化の出方まで、まったく別のものと言っていいほどです。
今回は、職人の立場から「漆塗りの木軸ペンは何が違うのか?」をわかりやすくお話しします。
後半では、長く美しく使うためのお手入れ方法も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
漆塗りは“木を守る”仕上げ
木軸ペンの仕上げには、「オイル仕上げ」や「ワックス仕上げ」など、さまざまな方法があります。
その中でも「漆塗り」は、木を美しく見せながら、しっかりと守るという点で特別な存在です。
オイル仕上げや蜜蝋ワックス仕上げは、木の内部に成分を染み込ませたり、
表面にやわらかい保護層をつくるタイプです。
自然な手触りと温かみが魅力ですが、使ううちに少しずつ取れていくという特徴があります。
そのため、定期的にオイルやワックスを塗り直すことで、艶と保護効果を保つ必要があります。
一方、漆の場合は、塗ったあとに硬化して丈夫な保護膜をつくります。
この膜が手汗や湿気、汚れから木を守り、長期間にわたって美しい状態を保ってくれるのです。
また、漆の塗膜は適度な弾力を持ち、木の動きにも自然に馴染むため、割れや反りを防ぐ効果もあります。
まさに「木を守る仕上げ」。
漆塗りの木軸ペンは、見た目の美しさだけでなく、実用性と耐久性を兼ね備えた仕上げです。
経年変化で“育つ艶”が生まれる
漆塗りの木軸ペンのもう一つの魅力は、時間とともに艶が育っていくことです。
塗りたての漆は深い黒やこげ茶のような色をしていますが、使ううちに少しずつ透明感が増していきます。
これは、漆が空気中の酸素や湿度とゆっくり反応しながら硬化を続ける性質によるもの。
年月を重ねることで漆がより澄み、下地の木目が少しずつ浮かび上がってくるのです。
この変化は、人工的な塗料では決して再現できません。
光の当たり方や使う人の手の油分によって艶の出方も変わり、まるで「その人の使い方が、一本の表情を育てていく」ようです。
さらに、漆は時間の経過とともに強度も増していくという特徴があります。
塗った直後よりも、数ヶ月、数年経った方が塗膜が安定し、より硬く、傷にも強くなっていきます。
つまり、漆は「使うほどに美しく、使うほどに強くなる」素材なのです。
ペンを毎日使うたびに、少しずつ艶と深みが増していく。
その変化を感じられるのは、漆ならではの楽しみです。
オイル仕上げとの違いを整理してみる

木軸ペンの仕上げとして人気がある「オイル仕上げ」と「漆塗り」。
どちらも木の美しさを引き出す方法ですが、性質や使い心地、経年変化の出方には大きな違いがあります。
ここでは、代表的な違いをわかりやすく整理してみましょう。
| 比較項目 | 漆塗り | オイル仕上げ |
|---|---|---|
| 手触り | なめらかでしっとり | 木の質感がそのまま伝わる自然な手触り |
| 艶の変化 | 時間とともに透明感と深みが増す | ややマットになり、落ち着いた風合いに変化 |
| 耐久性 | 高い(汗・水・汚れに強い) | 中程度(オイル成分が抜けやすい) |
| 強度 | 経年でさらに硬化し、塗膜が強くなる | 塗り直しで保護力を維持するタイプ |
| メンテナンス | 基本不要(乾拭きのみでOK) | 定期的なオイル塗布が必要 |
| 価格帯 | やや高価(手間と時間がかかる) | 比較的リーズナブル |
オイル仕上げは、木そのものの質感を味わいたい方にぴったり。
一方の漆塗りは、長く使っても艶や美しさが失われにくく、メンテナンスの手間も少ないのが特徴です。
つまり、「素材の自然さを楽しむ」ならオイル仕上げ、
「長く美しく使いたい」なら漆塗り。
どちらを選ぶかは、「見た目の好み」と「耐久性」が重要になるのかなと思います。
お手入れ方法は“何もしない”が基本
漆塗りの木軸ペンは、基本的に特別なお手入れをしなくても美しさを保てるのが大きな魅力です。
オイル仕上げやワックス仕上げの場合は、定期的に塗り直しが必要になりますが、
漆はすでに木の表面に“硬い保護膜”をまとっているため、日常的なメンテナンスはほとんど必要ありません。
普段のお手入れは、使ったあとに柔らかい布で軽く拭く程度で十分です。
手の油分が自然に艶を育ててくれるので、拭きすぎる必要もありません。
むしろ、日常の使用そのものが漆を“育てる時間”になります。
<長持ちさせるためのポイント>
・直射日光に長時間当てない(退色や劣化の原因になります)
・水に濡れた場合はすぐに拭き取る
・研磨剤入りの布やペーパーでこすらない
・高温多湿な場所での長期保管は避ける
漆は非常に強い塗膜を持ちながらも、熱や紫外線には敏感な素材です。
けれども、少し気をつけるだけで何十年も美しく使えるのが漆塗りの良さ。
「使いながら育てる」ことが、何よりのお手入れ。
それが漆塗りのいちばんの魅力です。
職人が感じる漆塗りの魅力
漆塗りの良さは、やはり「長く使うほど美しくなる」という点に尽きます。
塗りたてが完成ではなく、使いながらゆっくりと艶が深まり、手に馴染んでいく。
その変化が見られるのは、漆ならではの魅力です。
ひとつとして同じ表情はなく、使う人の手や環境によって少しずつ違う艶をまとっていく。
まるで“自分だけの一本を育てていく”ような感覚が、漆塗りの木軸ペンの面白さです。
まとめ
漆塗りの木軸ペンは、見た目の美しさだけでなく、
木を守り、時間とともに艶と強さが育っていくという魅力があります。
オイルやワックスのように塗り直しをしなくても、
日々の使用の中で自然と艶が増していく──
まさに、“使いながら完成していく”ペンです。
もしあなたが、長く大切に使える一本を探しているなら、
漆塗りの木軸ペンはきっと期待を裏切りません。
時間が経つほどに美しく、
手に馴染むほどに深まっていく一本を、ぜひじっくり育ててみてください。
